小野寺愛のESYA報告(1) 「エディブル・スクールヤード(食育菜園)のプログラム」

こんにちは。小野寺愛です。報告1回目となる今回は、エディブル・スクールヤードのプログラムについて書きます。

 

既存の学習指導要綱との互換性

img_2764

ESYのプログラムのどこがそんなにスゴいのでしょうか。なぜ、世界中から教育者の視察が止まらないのでしょうか。

「ESYのここがスゴい」、私の個人的ランキングでは、こんな感じです。

1)授業が体験的、実践的
どの授業でも、子どもたちにとって入りやすい「はじめ・中盤・おわり」のリズムを明確に作ります。ストーリーのある体験型授業が組み立てられていて、しかもすぐに真似できるようにカリキュラムが体系化されています。
(→今後、ガーデン&キッチン授業の紹介で詳しく書きます)

2)スタッフ教育と場作りの徹底
ガーデンとキッチンで子どもと向き合う先生たちの哲学は、「教えない」こと。皆さん、子ども自身が体験的に学びを得るファシリテーションのプロフェッショナルでした。しかも、新しく入ってくる先生も、必ずファシリテート上手な教育者として育つように、哲学と実践の伝達が体系化されています。
(→今後、ESYの運営とスタッフ教育の紹介で詳しく書きます)

3)他教科、全米および州の学習指導要領との互換性
どの授業を行うと、学習指導要領で定められているどの項目をクリアできるかがカリキュラム内で一目瞭然になっています。

今回は、この「3) 他教科、全米および州の学習指導要領との互換性」の部分を掘り下げてみようと思います。

授業の学びの面白さと深さもさることながら、すべての授業が、全米学習指導要綱「コモンコア」、カリフォルニア州学習指導要綱の双方で何条の何項にあたるのかを一覧できる表までついているところ、本当にスゴいと思うのです。これなら、教室を飛び出してガーデンやキッチンで授業をしてみたい先生も、すぐにその根拠を学校運営者や教育委員会に説明することができます。

fullsizerender-12

たとえば、6年生(中学1年生)の8回目の授業の項目を見てみましょう。

・4月28日、手打ちパスタをつくる授業を行います。
・その頃子どもたちが歴史の授業で学んでいるのは、シルクロードについて。パスタを作るこの授業は、シルクロード時代にローマ帝国が果たした役割を理解するのに役立ちます。
・材料のうちガーデンから収穫できるものは、卵、レモン、にんにく、パセリです。
・これは、「ESY Standards – ESY要綱」(後述)のコンセプト3.11「歴史上の文化における食と、現在の食をつなげて理解する」をカバーする内容です。
・これは、カリフォルニア州の学習指導要領の「歴史/社会科学」における6.6.7「ヨーロッパを横断するシルクロードの特徴を理解する」、6.7.2「ローマ帝国政府について理解し、言語化する」、6.7.8「ローマの芸術、建築、技術、科学、文学、言語、法律について議論する」をカバーする内容です。
・これは、全米学習指導要綱コモンコアの「読解力」におけるSL.6.1「協力的なディスカッションに積極的に参加する」、RI.6.7「異なるメディアや形態の情報を(視覚的、量的に、言語的に)統合し、そのテーマにおける一貫した理解を深める」をカバーする内容です。

fullsizerender-5

これだけ体系化された背景があることを、もちろん子どもたちは露ほども知りません。ただ、歴史で学んでいることが「美味しい!」を通して自分の中で日常の暮らしとつながっていく。素晴らしくて、うなるばかりです。

 

エディブルスクールヤードのカリキュラム

さて、ESYでフルタイム勤務しているのは、ガーデンの先生4人、キッチンの先生4人、事務局スタッフ2人の10人だけ。それを支えているのは、学校に常勤の他教科の先生たち、毎週必ず1度、1年間継続して活動に参加する50人の地域ボランティアと保護者たち、そして、20年の経験から練りに練られた「素晴らしいカリキュラム」です。

img_2722

ESYでは毎年、ガーデン授業とキッチン授業でそれぞれ1冊ずつ、すべての授業を束ねたカリキュラムが更新されています。その分厚さ、なんと15センチ!

眺めているだけで楽しくなるような美しいビジュアルの授業内容のほか、「ESY Standards – ESY要綱」として、ESYとしての学習の目やすも体系化されています。 サステイナビリティー、栄養学、生きる力、学習、コミュニケーションの5つの領域で、中学校の3年間、全75回(×90分)の授業を通して子どもたちになにを習得させたいかが明文化され、それぞれの授業との対応表ができています。

週に1度あるガーデンまたはキッチンの授業のたびに、子どもたちは自然に触れ、匂いをかぎ、収穫して、作って、食べる。仲間と相談し、協力し、共に手を動かす。それを3年間、全部で75回も積み重ねる子どもたちは、もう食べ物に夢中です。どんな食事を選ぶと、自分の身体、社会と環境にどんな影響があるかを自分の体験から知っています。食についての新しい行動指針を自分の中に携えた子どもたちが高校へと進学していくのは、希望ですね。

第1回目は、しっかりめにESYとそのカリキュラムの説明を行いました。次回は、なぜいま「エディブル教育」が大切なのかを、実践者の声を集めた映像を中心にご紹介します!