アリス・ウォータース:オープニングメッセージ全録(後半)

《参加者との質疑応答》

質問1:
アリスさんは「フードロス」と「フードウェイスト」について、どうお考えですか。

アリス:
ものすごく大事な質問です。注目してくださってありがとうございます。
捉えかたを二つ、共有させてください。まず、もしあなたが農園とつながっていれば、食べ物の残りが出たとしても、コンポストをして土に養分を戻すことができます。これがまず一つ、とても大切なことで、ESYでは子どもたちにも学校でこの循環を教えています。もちろん、野菜くずをコンポストにすればいいということではなくて、その前に捨てないこと、無駄をつくらないことが大切ですから、給食は食べられるだけ取りましょう、と伝えています。

もう一つ、大切なこと。食べ物は、人類の長い歴史の中でずっと、いちばん大切なものだったということです。捨ててもいいなどという発想が出てきたのは、つい最近になってからのこと。私たちは作った食べ物を捨てておきながら、同じ世界に今も飢えている人がいるのを放置しています。こんな状態を放っておいていい訳がありません。あまりに道徳的ではないと思っています。

質問2:
A Heart of The Edible Schoolyardとして、子どもたちに力をつけること、自分たちには力があると気づかせることが大切ということと併せて、「大切な価値観をしっかり伝えるということ」も大切だとお話しされていました。子どもに伝えたい価値観をカリキュラムと連携させた形で、いまESYで学ばれているのだと思うのですが、どのような価値観を最も大切に伝えたいと思われていますか。

アリス:
どんな価値観を教えるのが大事か。難しい質問です。大切な価値観は1つ以上ありますから。

まず、最も欠かすことができない大切なものは「Stewardship/受託責任」です。これは、仮にあなたが土地を所有していたとしても、その土地が自分のもの、自分のコントロール下にあると思うのではなくて、もっと大きな何かから受け継いで、また次に伝えていくものであるという感覚です。「所有」ではなく「預かっている責任」、この感覚を持つことができているか? 自分の風土から心にも体にも豊かな栄養を得る、土地と自然とつながっている… それを皆で理解している状態が大事だと思っています。

それからもう1つ大事なのは、「Equity / 公正」、真に平等であることです。この世界に生きるすべての命には、役割があります。人もそうですし、植物・動物でも同じですね。コミュニティーをつくる上で、役割のないものはありません。自分さえ良ければ、ではなく、大きな絵を皆で完成させている感覚が子どもに伝わるといいなと思っています。

そして、このような分かりやすい価値観のほかに、普段あまりに当たり前で気づかない大切なものもあります。それは「Beauty / 美しさ」です。何の美しさかって? まず、自然の美しさ。地域でつながることの美しさ。そこに伴う幸せ。この両方から、私たちの心と身体はどれだけの栄養を与えられていることでしょう。そのことに、子どもと一緒になって、大人の私たちも気づく必要があります。自然の美しさと、地域でつながることの幸せから十分な栄養を与えられているときに、人は正しい判断を下すことができるようになります。必要なのは、食べ物、そして自然と、恋に落ちること。何より大切なのはそこだと思っています。

質問3:
①いま、ESYはこんなにも大きくなっていますが、初めはどのように仲間を集めたのでしょうか。②気持ちが折れそうになったとき、どんな心もちで続けて来られたのでしょうか。

アリス:
(①について)
はじめから、大きく広げていこうとは思ったことはありません。使命はいつだって、広げることではなく、小さくても確実なモデルをつくることでした。

ESYをはじめた最初の頃、バークレー市内にある17校の公立校から次々に「アリス、うちでもやってほしい」という声がありました。でも、そこはブレません。私の答えはいつも同じで、「いいえ、まずは1箇所に集中しなくちゃ」というものでした。これは、自分のレストラン、シェ・パニーズでも同じでした。フランチャイズ化して欲しい、広げてほしいと言われても、決してそうすることはしませんでした。

皆が見て「ああ、そうやればいいんだ」と、明確に思ってもらえるモデルを一つでもつくることが大事なんです。先ほどお伝えしたような価値観をどこまで表現できるか、広く薄くではなくて1箇所で徹底的に見せていく必要があります。

料理人をここまで勇気づけることができる、子どもたちをここまで勇気づけることができるというのを、社会に見せる必要があったんです。少ししかない予算をたくさんの場所に分配しても、何も起こりません。一カ所に集中して「どうかこれを見て」と、注目を集める。自分たちのやり方を見てもらう。

それが、毎年夏に行なっているESYアカデミーで起こっていることでもあります。また、今では世界中から視察者が100人やって来て、皆が「こうすればよかったんだ」と自分なりの答えを得て、それぞれの土地に合った、それぞれのやり方で実践しています。料理のしかた、人の在り方、サーブする雰囲気、何をとっても画一的で絶対な答えなどありません。「そうやればいいんだ!」ときっかけになるヒントを見続けてもらうことが大事なのです。

(②について)
困難もあった中で続けてこられた秘密?
覚悟です。やるんだ、という覚悟。そして、協力。私はいつも、友達を雇うところからはじめます。「助けて」って言うんです。一人じゃできないことも、皆でならできますから。

食べられる校庭を学校に作るという壮大な夢も、広大な敷地を耕して種をまくことも、一人では絶対にできませんでした。でも、地域につながりがあり、皆でやれば必ずできるんです。

だからまず聞いてみて。
自分でやろうと完結せずに、聞いてみる。それってとても大切な一歩だと思うんですよ。

質問4:
①オーガニックや無農薬で野菜を仕入れることにはまだまだ特別感があり、高いものだ、特別な人が買うものだというところがあります。身近にも、オーガニック食材を仕入れることに特別感をもつ人がいます。そういう人にもっと身近に自分が選ぶ野菜の大切さを知ってもらうために、どのような言葉掛けをしたらいいでしょうか。
②農園などが近隣にない都市部でできる一歩として、どんなことを心がけていったらいいでしょうか。家庭できることも、教えてください。

アリス:
(①について)
オーガニックの大切さをどう伝えるか。
まずは皆がちゃんと料理をすることから始めるのが大事です。自分で料理をするようになると、自然と、素材についてもっと知りたくなります。少し値段が高くても、農家さんの育てたオーガニックの野菜を直接買うことが、どれだけ美味しい料理につながるかということが、日常的に料理をしていたら自然と分かっていく部分はあります。

繰り返しますが、大切なことは、普段の食材からオーガニックで買うこと、給食を変えていくこと、そして、家で作ること。買ったものを食べるのではなくて、家で料理をすることが大事です。家庭料理は、それぞれの多様な背景、多様な文化が出る、素晴らしい場です。伝統料理を通して材料を知れば、やっているうちに、お肉や乳製品を減らしていく工夫もできます。自分でつくってみるというのが、まずいちばんいい近道だと思っています。

(②について)
子どもが都会にいてもできるエディブル教育。難しいですが、不可能ではありません。建物の壁にも植物は育ちますし、学校の門の周りや、ちょっとした脇の花壇でも食べ物は育てることができます。アメリカでは、国有地など公の土地を次々にコミュニティガーデンにしていくムーブメントが広まりつつあります。空き地で食べ物を育てる活動は今後、世界中どこでも広がっていくべきだと思っています。

1つ、面白いストーリーがあります。私たちはかつて、サンフランシスコ市長がいる市庁舎の目の前に、畑をつくったことがあるのです。それこそ、大都会の真ん中ですよ。スローフードイベントの中で許可を得てやったものですが、訪れた人は皆、「このままのほうがいい」「食べ物がたくさん育つ素晴らしい場所、ぜひこのままにしてほしい」と話していました。

まさか市庁舎前の広場を畑にできるなんて、許可を得るまでは夢物語だと思っていました。だから、何をするにも、「聞く(ask)」ことが大事です。聞いてみないと何も始まらないし、相手がどう思っているか、本当の意味で理解することもできません。「はじめてみてもいいかな?」「これどう思う?」と周りに「聞く」、そして話し合うことは、思っているよりもずっと大事なことです。

子どもたちの話に戻ると、遠足で田舎に行くことを提案するのもいいですね。また、一般家庭でも、裏庭に少しなら食べ物を植えられるという人もいるでしょう。屋上で食べ物を育てている人もたくさんいますよね。それにもちろん、教室でも食べ物を育てることができます。

都会では難しいかもしれない。でも、決して無理ではないということを、ぜひ知っておいてください。