小野寺愛のESYA報告(4) 「もっと楽しく、風通しのいい職場をつくるために〜ESY運営のヒミツ〜」

こんにちは。の小野寺愛です。報告第4回目となる今回は、アカデミー2日目に学んだ、エディブル・スクールヤード(以下ESY)の運営についてを報告します。

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「スタッフみんなが仲良しで、意義ある活動をして、ちゃんと成果を出して・・・ESYの秘密はどこにあるの?とよく聞かれます。今朝は、その種明かしのような話からはじめましょう」

とESYディレクターのカイルが話しはじめました。

ESYでは、働く上で大切にしたい文化と、スタッフに求められるプロフェッショナリズムについて明文化しています。フルタイムスタッフはもちろんのこと、ボランティアとして毎年コミットする40〜50人のスタッフとも共有している「組織文化」の内容が、すごいです。以下、全文掲載します。

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Edible Schoolyard Workplace Culture エディブル・スクールヤードの職場文化

Our mission ミッション
生きる力、学力、市民教育、環境に対する責任、健康。1エーカーの菜園とキッチンを舞台に、そのすべてを子どもが習得するための全人教育のモデルとなることで、エディブル・エデュケーションを広めること。

Our Strategy 戦略
私たちのチームワーク、経験、イノベーションをもとに、授業と活動を試験的に行い、書面化し、評価を行う。ここで得た学びはすべて記録し、オンライン、およびトレーニングを通して、社会と共有する。

Culture Principles 文化の原則
1. 「ミッション」と「戦略」が判断の基準: 私たちは、いかなる判断・選択も、「ミッション」と、「戦略」の中に示した具体的目的を基盤に行う。
2. プロフェッショナリズム: 私たちは、個人としても、チームで動くときも、スタイルとしては大らかだ。その一方で、仕事に対する姿勢は徹底的にプロフェッショナルである。仕事の質、深度、生産性、効率は極めて高いものを求め続ける。
3. 楽しむ: 私たちは、誰と動くときも、前向きに、楽しく、笑いを絶やさない。素晴らしい仕事を行い、それを最高に楽しいと感じている。「リセットボタン」を尊重することも、いつも忘れない。
4. 協力して仕事をする: 私たちは、オープンであることと、透明性を大切にする。チームのすべてのメンバーがアイディアを出し、決断に関わることができるし、それを奨励されている。話し合いを経てひとたび決まったことは(最初の個人的見解に関わらず)チーム全員が尊重し、いちばんいいありかたでそれが実行されるよう、全員で全力を尽くす。
5. 全員が学び手である: 私たちは、謙虚な姿勢で仕事に向き合う。失敗が時には一番の教えになると認識している。好奇心、実験、ごちゃごちゃした考えを尊重する。
6. フィードバックを大切に受け止め、責任を持って提案する: 私たちは、繰り返し練習することと、プロフェッショナルとしての成長を信じている。フィードバックを行うときは、建設的に、優しさをもって行う。
7. 尊敬と思いやり: 私たちは、このコミュニティーと、構成メンバーのひとりひとりを大切にする。お互いの言動が、お互いにどれだけ影響を与えているかにいつも自覚的である。知ったかぶりをしたり、意地の悪い態度をとったり、けちな言動をしたり、見下したりすることはしない。
8. 自らの文化能力の発達を大切にする: 私たちは、個人としても、組織としても、学校教育現場が子どもにもたらす文化やアイデンティティの影響を研究し続ける。人種、権力、教育環境の格差などによる影響を考慮しながら、文化的に責任ある態度と実践で、すべての子どもたち、特に教育システム上、歴史的に不当な扱いを受けてきた子どもへのよりよいアクセスを確保する。また、このプロセスには必ず家庭を協力者として迎え入れる。私たちのコミュニティーの多様性を反映し、祝福するために、物理的にも気持ちの上でも十分な間を確保する。

What is Professionally Required  職業人として求められること
仕事上、基本的な責任を果たすために、ESYのすべての職員は
・ イノベーティブな教育において、優れた力量を発揮する
・ 挑戦する能力を持っている
・ グループで作業をする時は、互いに協力をする
・ 明確で強いコミュニケーション能力を持つ
・ 互いを尊敬する
・ プロフェッショナルとしての成長に従事する
・ 恥ずかしかったり、恐れを感じるときも、正直である
・ 職場の課題にプロとして言及し、取り組むことができる
・ 自身の言動が、子ども、学校職員、同僚に、どのような影響を与えるか、自覚的である

Communication Principles コミュニケーションの原則
1. 建設的な精神で、面と向かって、早期に事にあたる。いらいらを感じる前に行う。
2. 判断を下すのは、できるだけ後まわしにする。多くの問題は、誤解や中途半端な理解からくるもので、真の問題ではない。心を開いたままにする。
3. くよくよせず、悪口を言わず、解決に向かって動く。誰にでも気にさわる状況はあるが、同じく皆に、解決に向けた努力をする力がある。
4. 冷静である。上記3つの原則は、決して言動を慎重にさせるためのものではない。私たちはプロフェッショナルであり、肯定的(楽観的)であり、お互いに関心を向けている。
5. フィードバックを大切に受け止め、責任を持って提示する。建設的な批判は、人を成長させる贈り物。私たちは互いに、責任を持ってフィードバックを行い、受け取る。
6. 感謝する機会を大切にする。誰かが素晴らしい仕事をした時、肯定的なフィードバックをすることを忘れない。
7. すべての人がフィードバックを受けるに値する。ポジションに関わりなく、チームのすべてのメンバーに対してフィードバックを行う。
8. フィードバックを行うときは、必ず自分の言葉で話をする。そのときの態度、自分の体験と反応について、具体的である。一般化したり、誰かの代わりに話すことは、誰のためにならない。
9. フィードバックを受け取る。私たち全員がフィードバックを受け入れる。

Receiving Feedback フィードバックを受けるときは
1. 深く呼吸する。
2. 注意深く聞く。
3. フィードバックに対する自分の理解をまとめ、相手に伝える。
4. 聞いたこととじっくり受け止め、それを受けてどのような計画を練るのか(もしくはしないのか)、を考えるために、必ず時間をとる。
5. 時間をとったあと、フィードバックを提供した人と、意見交換の機会をつくる。

明るく楽しい文化を持つ組織は数あれど、その哲学を細かく明記し、そのすべてを(企業秘密ではなく)こうして世界中とシェアしている団体は、他にあまり知りません。世界中のあらゆる組織がこんな文化を軸に判断・行動・評価を行うことができたら、どれだけいいかと思わずにいられません。

カイルは言います。

「なにを大事に仕事をすべきかくらい、大体わかるでしょ」では、想いは伝わりません。いい仕事もできません。大事な哲学をきちんと明文化し、それぞれの責任範囲を明確化し、それをつねにオープンに共有しておくことで、50人の登録ボランティアを含むすべてのスタッフと、行動指針を共有することができるようになり、それがいずれ、場の文化となります。

自分がどう動くべきか、空気を読んで、察しあって… というのは、これだけ背景も人種も多様な人があつまるカリフォルニアではありえない話。「人種と背景が多様だからこそ、たくさんのアイディアが集まって面白い。でもだからこそ、大事なことほど丁寧に定義付け、確認する作業を怠らないようにしないとね」

なるほど、この指針があることで、批判的な意見も受け入れられやすくなるそうです。

 

「たとえば、ガーデンで問題を起こした子どもを過度に叱ったスタッフがいたとします。”なぜあんな言いかたをしたのか” と問うのでは、ただ責めているだけでなんの解決にもならない。だから、こう言うの。

“私は、あなたはあの場でどなるべきではなかったと思う。なにがあったの?
指針の8番を見て。私たちは、人種や権力やそれまでの家庭環境、教育環境の違いを加味して子どもたちに接し、学校菜園という場を使ってすべての子どもたちの文化とアイデンティティー形成を助ける立場にある。子どもに接するプロフェッショナルとして、まず子どもの意見を傾聴しようということも、ここに書いてある。
・・・私にはどんなサポートができたかしら。あのとき、あなたにどんなサポートがあったら、あの場でどならずに済んだと思う?」

皆で大事にしようと確認しあった哲学が真ん中にあるから、それにのっとってお互いの仕事を評価しあうことができる。個人的な好みや中傷ではなくそれができることが、風通しのいい組織で居続けることができる秘訣ではないか、とカイルは話してくれました。

この行動指針の他、それに基づいて行う仕事の評価の基準も、事細かに描き出されていました。「評価」って、ネガティブな体験ばかり思い浮かんでしまいがちだけれど、正当に評価されることはモチベーションにもつながり得る大事なこと。うーん、すごいなあ。

私個人的には、「社員をサーフィンに行かせよう」(パタゴニア創設者、イヴォン・シュイナード作)を読んだとき以来の衝撃でした。ハッピーで建設的で誠実な組織文化を、こんな風に体系的に生み出すことができるのですね。

アカデミー2日目の午後は、地域や家庭をどう巻き込むかについてを学びました。その内容は、また後日に。